福岡高等裁判所 昭和35年(ラ)247号 決定 1960年12月19日
抗告人 佐藤正夫
主文
本件抗告を却下する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
抗告の趣旨および理由は別記のとおりである。
記録によれば、抗告人は本件競売不動産上の登記を経た抵当権者で、昭和三五年六月一五日に本件競売期日が競売法第二七条の利害関係人たる抗告人に通知せられていないこと、競売期日の公告に掲示された競売不動産の最低競売価額の低減が不相当であることなど、要するに原裁判所には所論競売手続上の過誤があることを主張して民事訴訟法第五四四条の執行方法に関する異議申立をしたところ、原裁判所はこれに対する裁判をすることなく競売手続を進めた結果昭和三五年九月一三日の競売期日において富士金融株式会社の最高価競買申出があり同月一九日同会社に対する競落許可決定を言渡し、該決定は同月二六日確定したこと、なお原裁判所は前記競落許可決定言渡の日と同日附で、別個に抗告人の前記異議申立を却下する旨の決定をなし、該決定正本は同月二七日抗告人に送達せられたことを認めることができる。
ところで競売法第三二条により準用される民事訴訟法第六七二条は競落の許可についての異議申立を、同法第六七四条第六七七条は、異議の申立を正当とするときは競落不許の、不当と認めるときは競落許可の決定を言渡すべきことをそれぞれ規定しているが、右競落許可についての異議申立及びこれに対する競落許否の裁判は、(一)同法第六七二条第六七四条第六七五条等において手続上の違背を異議事由と定めている限りにおいて本質的には同法第五四四条の執行方法に関する異議の申立及びこれに対する裁判の一種であり、(二)しかも同法第六七二条第六八〇条第六八一条により異議抗告の理由利益を制限し、競落許否の決定に対する不服申立の方法として同法第五五八条の一般規定によらず同法第六八〇条に特別の規定を設けていることからして、不動産の競落許否に対する異議不服については、前示各法条は同法第五四四条の特別規定であるといわねばならない。したがつて競落期日に至るまでの間に競売手続上瑕疵があつてもひとたび競落の許、不許の裁判が言渡された場合には、右競売手続上の瑕疵に対する攻撃は競落の許、不許の裁判に対する抗告をもつて攻撃すべく、しかも、その抗告理由は民訴第六七二条第六七五条等の特別規定に服するのである。(これを反対に解すれば、後記のように競売手続上すでに確定している競落許可決定を、同じ手続上の瑕疵あるを理由として、その確定を動かすの結果を招来する矛盾を生ずるのである。)故に競売手続上の違背を理由として利害関係人から民訴第五四四条にもとずく異議申立がなされても、競売裁判所がこれに対する裁判をすることなく競落許可決定を言渡した場合には、その決定は右手続上の違背を理由とする異議申立を排斥したものと解すべきであつて、競落許可の決定とは別個に異議申立却下の裁判をすることは必要ではなく、またすべきではない。
本件において原裁判所は競落許可決定を言渡したほかに、抗告人の異議申立を却下する旨の決定をなしたが、右却下決定は無用の裁判であつて、無用の裁判に対する本件抗告は抗告利益のないものという外はない。
なお本件抗告を競落許可決定に対する即時抗告の申立と善解しても、本件抗告は既に右競落許可決定確定後に提起せられたこと記録により明らかであるから、不適法である。
いずれにしても本件抗告は不適法であるから、民事訴訟法第四一四条第三八三条第九五条第八九条を適用し、主文のとおり決定する。
(裁判官 泰亘 中島武雄 高石博良)
抗告の趣旨
原決定を取消す
債権者富士金融株式会社債務者亀谷トモヱ間の大分地方裁判所昭和三四年(ケ)第一二一号不動産競売事件の競売手続は之を取消す
右債権者のなした本件競売の申立はこれを却下する
旨の裁判を求める。
抗告の理由
一、抗告人が本件異議申立の理由として主張した要点は原決定に示された通りであるがその申立の趣旨は結局に於て本件競売手続が違法であるから之が取消を求めたものであることは申立の全趣旨を通じて明らかな処である。
二、之に対し原決定はいづれもその理由なしとして抗告人の異議申立を却下したところであるが、次の諸点について抗告人は不服の主張をする。
(1) 即ち原決定は利害関係人たる抗告人に対し競売期日の通知を怠つたとしても、それを発見後新競売期日を更めて通知し、最低競売価格を復元したから、もはや権利の侵害はないといはれる。
然し抗告人にとつては右競売期日の通知は全く初めて受けたものであり、従つてその最低競売価格は当初の最低競売価格によるべきであるのに事実は金弐百九拾八万弐千四百円という極めて低い競売価格に定められて居り、既に利害関係人たる抗告人の債権を満足せしむるに足りない価格とせられて居つて、それまでの間に高価で競落すべき機会は失はれて居る次第であるから抗告人の権利は不当に侵害せられ、結局抗告人としては、利害関係人として本件競売手続に参加する機会を失なつて居るものであるから、右競売手続は違法であつて、取消さるべきものである。
(2) 原決定では最低競売価格の決定は裁判所が相当とする価格に従つて競売に付したものであるから信義則に違背するものではないといはれる。
なるほど右最低競売価格は当事者竝に利害関係人の同意によつて変更されたものではないけれども、本件競落人は、本件物件の最低競売価格が高すぎるから、之を低額にすることを債務者等と申合せその旨の上申がなされて居ることが記録上に明らかであり、裁判所も右上申による価格を参酌して競売価格が定められて居ることも記録上明らかであつて、たとえ売却条件の変更でないとしても、本件競落人の上申した価格が本件競落価格の決定に対し重大な影響を及ぼして居ることは抗告人のいう通りである。
してみれば競落人は予め債務者等と相通じ不当に低額な競落価格の上申をし、他の利害関係人等をして適正な価格による競落の機会を喪はしめて、ほしいまゝに不当な低額を以て自己に競落して居るものに他ならないから信義則に違背するものであることは極めて明らかであり、従つて斯る競売手続は許さるべきではない。
三、以上の理由により抗告人は民事訴訟法第五五八条にもとづき茲に即時抗告の申立に及んだ次第である。